成犬の8割は「歯周病」の疑いがあります
歯周病の危険レベル別の症状から、愛犬の歯周病レベルをチェックしましょう
「愛犬の口が臭い」「歯茎が腫れている」「歯ブラシに血がつく」などの症状から、愛犬の歯周病を心配している飼い主さんは多いはず。
あるペット保険の調査では、成犬の約8割が「歯周病予備軍」だと発覚したほど、歯周病は犬に多い病気の1つです。
なお、歯周病は症状がどんどん進行するため、放置すると「歯が抜け落ちる」「顎の骨が溶ける」「顔に穴が開く」など、重症化する場合も・・。
それでは愛犬が歯周病にかかっていないか確認するために、歯周病の進行レベルごとの症状や危険性について、一緒に確認しましょう。
成犬の8割は「歯周病」の疑いがあります
歯周病の危険レベル別の症状から、愛犬の歯周病レベルをチェックしましょう
それではまいります。
目 次
歯周病とは、歯茎が腫れて炎症を起こす「歯肉炎」と歯の周辺組織に炎症が起こる「歯周炎」の総称です。
歯に歯垢(しこう)が付着したのをきっかけに、歯肉炎・歯周炎へと炎症がどんどん悪化していきます。
歯周病の進行のメカニズムは、次のとおりです。
【歯周病の進行レベル】
①健康な歯
歯垢(しこう)や歯石の沈着なし
②歯垢の付着(危険レベル:低)
歯周病が発生するきっかけは、歯に歯垢が付着すること
③歯肉炎(危険レベル:中)
歯垢に含まれる細菌によって、歯茎が炎症を起こす(歯肉炎)
歯垢が石灰化して、歯石へと変わる
④歯周炎:軽~中度(危険レベル:高)
炎症が歯の周辺組織まで広がる(歯周炎)
歯垢・歯石の沈着が増える
⑤歯周炎:重度(危険レベル:MAX)
歯周炎が歯の根元まで広範囲に及ぶ
歯が抜け落ちたり顎の骨が溶ける
それでは進行レベルごとに、主な症状や危険性を見ていきましょう。
●歯垢の付着の症状
少量の歯垢(しこう)が沈着した程度の場合は、ほかに目立った症状はなし
歯垢の沈着が増えると、口臭の発生・食後の食器にぬめりが残る
歯周病のはじまりは、歯に歯垢(プラーク)が付着すること。
歯に歯垢(しこう)が付着すると、歯垢に含まれる細菌が食べかすをエサに増殖してさらに歯垢を増やします。
また歯垢に含まれる細菌は、歯肉(歯茎)に炎症を起こして歯肉炎を引き起こします。
さらに歯垢が唾液に含まれるミネラルと結びついて石灰化すると、歯石へと変わり歯周病をどんどん悪化させることに・・。
そのため歯周病を防ぐには、歯に歯垢を付着させないことが重要です。
歯石の沈着を防ぐには、食後に歯を磨いて口の中に食べかすを残さないこと。
歯垢は食後6~8時間かけて、口の中の食べかすをもとに発生します。
ですから歯垢のもととなる食べかすを残さないように、口の中を清潔に保つ必要があります。
なお、歯垢が少し溜まった程度では、口臭や歯茎の腫れなどの目立った症状はありません。
そのため、ほとんどの場合が気づかず症状が進行していくことに・・。
歯垢は歯ブラシで磨き落とせるので、症状を進行させないためにも歯みがきは欠かせません。
歯周病のはじまりは、歯垢(プラーク)が歯に溜まることです
歯垢を沈着させないためには、毎日の歯みがきがかかせません!
●歯肉炎の症状
歯茎(歯肉)の腫れ、歯茎から出血、歯石が増える、食器にヌメリが残る、口臭が気になる(個体差あり)
口の中に歯垢がたくさん蓄積すると、歯垢に含まれる細菌によって歯茎(歯肉)が炎症を起こします。(歯肉炎)
歯茎が赤く腫れ、歯ブラシやガムなどに血が付くことも。愛犬によっては口臭が気になり始める場合もあります。
また歯垢が歯石(歯垢が唾液中のミネラルと結びついて石灰化した状態)へと変わり、歯肉炎をさらに悪化させます。
歯垢は細菌が含まれる歯に沈着した汚れ(プラーク)です。
食後6~8時間後に発生するため、食べかすを残さないように食後の歯みがきが重要です。
ただ歯垢はやわらかいので、歯に沈着しても歯ブラシや歯みがきガムで除去できます。
一方、歯石は歯垢が唾液に含まれるミネラルと結びついて石灰化したものです。歯垢が歯に沈着してから、わずか3~5日後に歯石へと変わります。
なお石灰化した歯石は硬いため、歯ブラシやガムで取り除くことができません。
なお、犬が歯周病にかかりやすい原因の1つは、歯垢(しこう)が歯石に変わりやすいからです。
人は歯垢から歯石に変わるまでに約20日かかりますが、犬はたった3~5日間で歯垢が歯石へと変わります。
そのため軽症の歯肉炎だったのが、あっという間に重度の歯周病へと変わりやすいのです。
歯の炎症はここまでに抑えることがポイント!
歯肉炎(歯茎の炎症)は軽度であれば、病院に行かなくても歯みがきを徹底するだけで改善できます
●歯周炎(軽~中度)の症状
歯垢・歯石の沈着、口臭がキツくなる、歯茎の腫れ・赤み、よだれが増える、硬いものが食べにくくなる、食べる速度が遅くなる
歯肉炎が進行すると歯茎だけでなく、歯と歯茎の間にある歯周ポケットなどの周辺組織にまで炎症が広がり、「歯周炎」が引き起こされます。
この段階になると、歯垢や歯石の沈着が簡単に確認でき、口臭もきつくなります。
また歯茎がぷよぷよと赤く腫れ、歯茎の後退により歯が広範囲に露出して見える場合も・・。
ほかにも歯周炎の影響から、食べる速度が落ちたり硬いものを食べづらそうにする仕草が見られます。
飼い主さんが見てわかるほど、歯垢・歯石が溜まっている場合は家庭だけで治療するのは困難です
歯が抜け落ちるなどの重症化する前に、病院へ連れていきましょう
●歯周炎(重度)の症状
歯垢・歯石の沈着、口臭がキツくなる、歯がグラグラする、歯茎の腫れ・赤み、くしゃみ・鼻水・よだれが増える、口から食べ物をこぼす、食べるのが遅い、硬いものを食べない、口のまわりを気にする、または床にこすりつける、よだれに血が混ざっている、食べている途中に急に声を上げる
さらに重度の歯周病になると、炎症が歯の根元部分(歯根部)にまで広がり歯と歯茎の間にある歯周ポケットにまで炎症が広がり歯周組織を破壊します。
歯がグラグラして抜け落ちたり、歯の根元(歯根部)の炎症が鼻や頬にまで及部影響から、大量の鼻水やくしゃみが頻繁に起こったり、鼻血が出る場合もあります。
また歯周病の炎症がひどい場合は、歯の根っこの先端(根尖:こんせん)を通り越して、炎症が目の下まで広がることも・・。
すると、炎症によって顔の皮膚に穴が開く「根尖膿瘍(こんせんのうよう)」が引き起こされます。
口から顔を貫通した穴からは血や膿が出て、見た目にも痛々しい状態です。
ほかにも、歯周病が重症化した歯の位置によって、顎の骨が溶けて硬いものを噛んだだけで下顎の骨が折れる「下顎骨折(かがくこっせつ)」、上顎の骨が溶けて口と鼻が貫通する「口鼻瘻管(こうびろうかん)」などが起こります。
また歯周病菌が歯周ポケットから血流に乗って全身にまわると、心臓病や肝臓・腎臓の働きを阻害する恐れがあり、大変危険です。
歯の表面がわからないほど歯石が溜まっている場合は、歯茎の奥まで炎症が広がっている危険性があります
愛犬も痛みを感じてご飯も十分に食べられません
すぐに動物病院へ連れていきましょう
以上が、歯周病の進行レベルごとの主な症状です。
歯周病を治療するには、歯や歯周組織に溜まった歯石を除去する必要があります。
歯石は石灰化して硬いため、「スケーラー」と呼ばれる細い器具を使って歯にこびり付いた歯石を削り落としていきます。(スケーリング)
なお、無麻酔でスケーリングをおこなう動物病院もありますが、スケーリングは基本的には麻酔が必要です。むしろ、無麻酔のスケーリングでは歯石をすべて取り除けません。
歯石は表面だけでなく、歯と歯茎の間の歯周ポケットの奥まで蓄積している場合があります。
しかし無麻酔の場合だと、愛犬が怖がったり嫌がったりして動くため、歯周ポケットの奥までスケーリングで歯石を取ることができず、表面的な治療で終わってしまいます。
また犬は口を触られるのを嫌うため、意識がある状態で無理やり口を開けて歯を削ると、口の中を傷つけたり、今後の歯みがきにも悪影響を与えかねません。
ただ、全身麻酔による体への負担(とくに高齢犬)が心配な面もあります。
そのためスケーリングは愛犬の体調や症状を踏まえ、獣医さんと相談しておこないましょう。
つづいて、歯周病にかかりやすい犬種について見ていきましょう。
歯周病はすべてのワンちゃんが発症する恐れがありますが、とくに顎の小さい小型犬や鼻の低い短頭種、高齢犬は発症リスクが高いです。
それぞれの注意点を見ていきましょう。
●小型犬
小型犬は顎が小さいため歯と歯が重なりやすく、そこに歯垢が溜まりやすいです。
また小型犬は、乳歯が残ったまま永久歯が生える「乳歯遺残(にゅうしいざん)」も多く、小さな顎に歯がガタガタと生えるケースが多く見られます。
歯と歯が重なる部分もしっかり磨いて、口の中に食べかすが残らないように注意してあげましょう。
チワワ、トイプードル、ポメラニアン、ヨークシャーテリア、ミニチュアダックスフンドなど
パグやフレンチブルドッグなどの鼻の短い犬種(短頭種)は、上顎が短く内側にカーブしている特有の体の構造をしています。
そのため歯並びが悪いケースが多く、また歯ブラシが奥まで届きにくいため歯垢・歯石が溜まりやすいです。
小型犬と同じく、ガタガタの歯並びの間もしっかり磨いてあげましょう。
パグ、フレンチブルドッグ、ボストンテリア、ペキニーズ、シーズーなど
歯周病は、高齢になるほど発症率が増加傾向にあります。
加齢とともに歯周病が多くなる主な理由は、「唾液の分泌低下」と「免疫力の低下」です。
唾液には、口の中を殺菌・抗菌する成分が含まれています。しかし高齢になると唾液の分泌量が減少するため、口の中で歯周病菌が増殖しやすくなるのです。
また加齢にともなう免疫力の低下により、歯肉炎や歯周炎の炎症が重症化しやすいです。
アニコム損害保険株式会社のデータでは、5才を過ぎた頃から年齢が上がるとともに発症率がどんどん高まっています。
そのため高齢になるほど、歯周病対策が欠かせません。
歯周病の予防でもっとも効果的なのは、「歯みがき」です。
歯みがきガムも食べかすや歯垢(しこう)を取り除く効果がありますが、歯周ポケット(歯と歯茎の間)の歯垢を除去するには、歯ブラシでかき出すしかありません。
そのため理想は毎日・毎食後、最低でも3日に1度の歯みがきを徹底しましょう。
なお、愛犬が歯みがきを嫌がったり飼い主さん自身が歯みがきに慣れていない場合は、はじめは一部の歯だけを磨くようにしてもOK。
犬の歯は、上の第4前臼歯と下の第1後臼歯に汚れや歯垢が溜まりやすい傾向があります。
※どちらも犬歯(最も尖っている歯)以降にある大きい歯の中でもっとも前列に位置するものです。
まずは犬歯と上下2本の歯(第4前臼歯・第1後臼歯)を重点的に磨きましょう。
なお、歯みがきガムだけでは歯垢を除去できないので、歯みがきのサポート的に利用するのがおすすめです。
犬は生後7~8ヶ月で乳歯から永久歯に生え変わります
ただ歯みがきに慣れてもらうには、生後3~4ヶ月頃から歯みがきを習慣づけましょう!
ヨーグルトに含まれる乳酸菌の殺菌能力を利用して、ヨーグルトで口臭予防・歯みがきをする方法もありますが、効果はというと・・
結論からいうと、ヨーグルトでの歯みがきはおすすめできません。
なぜなら、ヨーグルトには乳糖が含まれているから。
乳糖は砂糖に含まれるショ糖より虫歯をつくる力は弱いものの、場合によっては虫歯を発生させる原因になりかねません。
そもそもヨーグルトは歯を磨くためのものではなくカロリーやリン、カリウムなどを過剰摂取する場合も・・。
また少量のヨーグルトに期待できる殺菌効果はそれほど大きくないので、犬用の歯みがきジェルなどを利用することをおすすめします。
犬は歯周病にかかりやすいですが、歯のケアを注意しておこなえば予防できる病気です。
歯周病は重症になると、歯が抜けたり骨が溶けるなど愛犬の体に大きな負担を与えます。
そのため歯周病にならないように未然の予防、また口臭や歯茎の腫れなどの症状が見られたら、症状が進行する前に病院で診てもらいましょう。
※参考文献
【一般社団法人ペットフード協会・ペットフート販売士認定講習会テキスト】
「犬・猫の体の構造と生理」「犬・猫の栄養に関する基礎知識」より
※参考サイト:犬の歯周病に関する調査を実施
※参考サイト:歯周病とは?
※参考サイト:犬の歯周病
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