炭水化物はワンちゃんにとって必須栄養素ではないただ体のためには摂取するほうがベター
またドッグフードに含まれる炭水化物であれば、ワンちゃんは問題なく消化できる
「ワンちゃんに炭水化物は必要ない」という話を聞いたことがありますか?
必要でない理由は、ワンちゃんの唾液には炭水化物に含まれるデンプンを消化する酵素(アミラーゼ)が含まれていないから。
そのためワンちゃんは炭水化物を摂取しても消化できないので、「摂取しても意味がない=体に必要ない」と考えられたのです。
しかしこの考えは誤解です。じつは炭水化物はワンちゃんにとっても大切な栄養素であり、けっして摂取しなくて良いわけではありません。
それでは愛犬に炭水化物は本当に必要なのか、またきちんと消化できるのか確認しましょう。
結論からいうとワンちゃんにとって炭水化物は、食事から絶対に摂取しなければならない必須栄養素ではありません。ただ健康維持のためには摂取したほうが良い、大切な栄養素です。
またワンちゃんが炭水化物の消化が苦手なのは事実ですが、ドッグフードに含まれる炭水化物は例外。ワンちゃんはドッグフードに含まれる炭水化物のほとんどをきちんと消化できます。
炭水化物はワンちゃんにとって必須栄養素ではないただ体のためには摂取するほうがベター
またドッグフードに含まれる炭水化物であれば、ワンちゃんは問題なく消化できる
それでは、ワンちゃんが炭水化物を摂取したほうがいい理由とドッグフードに含まれる炭水化物を消化できる理由について、1つずつ確認しましょう。
そもそも炭水化物とは、お米や小麦、トウモロコシなどの穀物に豊富に含まれる栄養素の1つ。なお栄養素は炭水化物を含めて、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの5つの種類があります。
ちなみに私たちは5種類の栄養素すべてが必要。そのため栄養バランスの良い食事が健康維持につながると考えられています。
一方、ワンちゃんは5つの栄養素すべてが必要ではありません。
ワンちゃんの必須栄養素
愛犬が食事からの摂取が必要な栄養素はタンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルの4つ。残りの1つ炭水化物は、絶対に摂取が必要な栄養素ではないのです。
その理由には、犬の祖先が肉食動物のオオカミだということが大きく関係しています。
オオカミの主な食料源は草食動物や鳥類。果物や木の実、キノコなども食べていましたが肉類が中心です。
そのため摂取する栄養素の多くが動物性タンパク質や脂質。オオカミは肉食中心の食性により、炭水化物の摂取量が少なくても健康を維持できる体質を持ち合わせています。
このことからオオカミの子孫である犬も少なからずその体質が残っているとされ、ワンちゃんにとって炭水化物は絶対に必要な栄養素とはされていないのです。
一方、炭水化物よりも愛犬の体に重要とされるのがタンパク質と脂質です。
タンパク質は全身の細胞のもととなる栄養素。皮膚や被毛の健康、筋肉の発達、ホルモンや抗体(免疫機能)の正常な分泌など、愛犬の成長や健康維持に欠かせません。
また脂質は皮膚や被毛に含まれる水分量を調整して、皮膚の乾燥や被毛のパサツキを防止。
ほかにも脂質の摂取は、皮膚や被毛の健康に欠かせない必須脂肪酸(オメガ6・オメガ3)の補給と、油と一緒に摂取すると吸収率が高まる脂溶性ビタミンの体内吸収をサポートする役割もあります。
タンパク質:皮膚、被毛、筋肉、ホルモンなど全身の細胞のもと
脂質:皮膚の乾燥、被毛のパサツキの防止、脂溶性ビタミンの吸収のサポート
ちなみにビタミンとミネラルも、タンパク質や脂質と同じくワンちゃんに必要な栄養素。ただビタミンとミネラルの必要量はごくわずかなため、タンパク質と脂質をしっかり摂取できていれば必要量は満たされるとされています。
そのためタンパク質と脂質の摂取に注意すれば、ワンちゃんに必要な4つの栄養素(タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル)を十分に補えるのです。
しかし4つの必須栄養素を十分に摂取しても補いきれないものがあります。それはワンちゃんの体を動かすエネルギー(カロリー)です。
ワンちゃんの体に必要な4つの栄養素のうち、エネルギーをつくり出せる栄養素はタンパク質と脂質の2つ。しかしタンパク質と脂質だけでは、愛犬の1日に必要なエネルギーを補えません。
なぜならワンちゃんの1日に必要なエネルギーをタンパク質と脂質だけで補おうとすると、タンパク質と脂質の摂取量が多くなり過ぎて、体に負担をかけてしまうから。
タンパク質の過剰摂取は肝臓や腎臓に負担をかけ、脂質の過剰摂取は肥満を引き起こします。そのためタンパク質と脂質だけで1日に必要なエネルギーを補うのは健全ではありません。
ワンちゃんが炭水化物を摂取したほうが良い理由
タンパク質と脂質だけでは不足するエネルギーを補う
【タンパク質の過剰摂取】肝臓・腎臓の負担大
【脂質の過剰摂取】肥満の原因
そこでエネルギー補給に役立つのが炭水化物。炭水化物はタンパク質や脂質よりも体内でエネルギーに変わりやすく、愛犬のエネルギー源として最適です。
このことから炭水化物は、タンパク質と脂質だけでは補いきれないエネルギーを供給する、大切な役割があるのです。
ちなみに愛犬の体に必要なタンパク質と脂質、炭水化物のバランスを表したものに、環境省の『飼い主のためのペットフード・ガイドライン』のグラフがあります。
そのグラフでは愛犬の体に必要な3大栄養素として、タンパク質・脂質・炭水化物の割合を下記のように示しています。
この表を見ると、ワンちゃんにとって必須栄養素ではない炭水化物が60%と一番多く、ワンちゃんに必要不可欠なタンパク質と脂質(脂肪)がそれぞれ25%と15%と少ないことに疑問を感じるかもしれません。
ただこれはタンパク質と脂質の過剰摂取による悪影響を引き起こさないため。
先ほどもお伝えしたとおり、必要以上のタンパク質の摂取は腎臓や肝臓に負担をかけ、脂質は肥満の原因になります。
そのためワンちゃんの体に最適な量として、タンパク質25%、脂質15%が設定されています。
残りの60%を占める炭水化物は、あくまでタンパク質と脂質だけでは不足するエネルギーを補う役目なだけ。炭水化物の割合はタンパク質と脂質の摂取量によって増減するので、必ずしも炭水化物を60%摂取するという意味ではありません。
ここまでの内容のとおり、炭水化物はタンパク質と脂質だけでは不足するエネルギーを補うために摂取が必要な栄養素ですが、炭水化物にはエネルギー補給以外にも愛犬の健康に役立つ働きがあります。
それは腸内環境の改善です。
そもそも炭水化物は糖質と食物繊維からできていて、エネルギー源として利用されるのは糖質だけ。ただ、もう一方の食物繊維は腸内環境を整える働きがあります。
炭水化物のまわりにトウモロコシと小麦、お米の画像を入れてください
※糖質はエネルギー源になり、食物繊維は腸内環境を改善する働きがあることが分かるようにしてほしいです
食物繊維は摂取しても体内に吸収されず体の中を通って排出されるだけですが、ウンチのカサを増やしたり老廃物を絡めて体外へ排出させる働きがあります。
なかでも腸の働きを促して腸内環境を整える効果は、健康維持にとっても重要。
なぜなら腸内には免疫細胞の60~70%が存在していると考えられているため、腸内環境が良好だと免疫力が低下せず、病気の予防につながるからです。
とくに免疫力が低下しやすい高齢のワンちゃんは、積極的な食物繊維の摂取がおすすめ。
高齢のワンちゃんは免疫力だけでなく、腸の働きの低下によって便秘を引き起こし腸内環境が悪化しやすい傾向があります。
食物繊維の摂取によって腸内環境が改善されれば、免疫力の低下と便秘の両方の予防が可能です。
このように愛犬にとって炭水化物は、エネルギー補給や腸内環境の改善に役立つ大切な栄養素です。
また炭水化物の摂取量が少なすぎると、ワンちゃんが無気力になったり、母犬の場合は保育能力の低下、胎児異常を引き起こす危険性もあります。
大量の摂取は必要ありませんが、まったく摂らないのも体に良くないのです
ただ炭水化物を摂取したほうが良いとわかっても、愛犬が炭水化物を消化できるのか不安な飼い主さんも多いはず。
それではワンちゃんが炭水化物を消化できるのか、その答えを見ていきましょう。
ワンちゃんの唾液にはデンプン(炭水化物の一種)を消化するための酵素アミラーゼが含まれていません。そのため基本的にはワンちゃんは炭水化物の消化が苦手です。
ただドッグフードに含まれる炭水化物だけは例外。ワンちゃんはドッグフードに含まれる炭水化物であれば問題なく消化できます。
その理由はドッグフードに含まれる炭水化物は、ワンちゃんの体内でも消化しやすいα(アルファ)化の状態に加工されているからです。
α化とは、糊のようなゲル状になること。
たとえば未加熱のお米は硬いですが、水分を加えて加熱すると柔らかいご飯となり、さらに水分を増やせば糊状になります。この糊のような状態がα化です。
ドッグフードに含まれる炭水化物は製造工程でα化され、その状態を保ったまま乾燥されています。
ちなみにペットフード公正取引協議会の調査では、ドッグフード(ドライフード)のα化度は91~93%。
フードのほとんどがα化状態のため、ワンちゃんはフードに含まれる炭水化物を問題なく消化できるのです。
またワンちゃんの唾液にはデンプンの消化酵素アミラーゼが含まれていませんが、膵臓からは微量のアミラーゼが分泌されています。
さらに世界的な科学誌ネイチャーでも、犬が祖先であるオオカミよりもデンプンを消化する能力が高いことを研究した論文が発表されています。
2013年に英科学誌ネイチャーは発表した論文(The genomic signature of dog domestication reveals adaptation to a starch-rich diet)によると、犬は狼より効率的にデンプンを消化できる能力を持っていると発表しています。
犬と狼は遺伝子レベルでほとんど同じと言われていますが、消化吸収能力において明確な違いがあると考えられています。狼と消化能力の違いが明確にある以上、遺伝子がほとんど同じという理由を挙げて犬にとって狼と同じ食事が一番よいというのは誤りと考えるのが妥当でしょう。
ワンちゃんは過去から現在に至るまで長く人と暮らしてきた影響により、今や人とほぼ同じ消化器官を持っています。
そのためオオカミよりも雑食性が強く、オオカミよりもデンプンの消化能力が高く変化しているのです。
このことから愛犬はドッグフードに含まれる炭水化物であれば、問題なく消化できます。
さいごにワンちゃんと炭水化物に関して誤解されている、炭水化物とがんの関係について見ていきましょう。
2017年10月、「炭水化物を摂取するとがんになる」という内容の論文が発表されました。
がんはワンちゃんの死因第1位の病気です。そのため愛犬に炭水化物入りのフードを与えていた飼い主さんはこの論文の内容に大きな不安を感じたはず。
ただ世間に広まった情報と論文の本当の中身には、すこしちがいがあります。
論文の本当の中身は、「炭水化物(糖質)はがんの成長を加速させる」であり、「炭水化物を摂取するとがんになる」ではありません。
がん細胞が炭水化物を利用して成長・増殖することが確認されたのであって、炭水化物ががんの発生原因という内容ではなかったのです。
そのため炭水化物の摂取によって、愛犬ががんになるという考えは誤解です。
がんは食生活やストレス、生活環境・週間などのさまざまな要因が影響しているとされ、いまだ発生原因ははっきりと解明されていません。
ただガンを発症した場合は炭水化物の摂取を控えたほうが良い場合もあり、その場合は獣医さんの指示に従った食事管理をおこなうようにしてください。
一方、健康なワンちゃんにとって炭水化物は、エネルギーを効率よく摂取でき腸内環境の改善に役立つ栄養素です。
多すぎず少なすぎずバランス良く摂取させるように心掛けてください。
炭水化物はワンちゃんに必要ない・消化できないと、よく言われていますが、それは大きな誤解です。
ワンちゃんにとって炭水化物は健康維持に役立つ大切な栄養素です。
ただ大量には必要ないので、愛犬の食事はタンパク質と脂質の摂取を中心に考え、不足するエネルギーを炭水化物で補うようにバランス良い摂取に注意してあげましょう。
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